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一頭の熊がいる。首から背中にかけて流れる毛並み。たくましい太ももの筋肉をおおって、大地を踏みしめる力強い四肢。毛の一本一本まで丹念に彫り抜かれた熊たちは、生きている。木彫家・藤戸竹喜が繰り出す刃先から、いきいきとした森の獣たちが生まれる。 阿寒の地は別天地ここを自分の居場所と決めた 藤戸さんは木彫り熊で有名な旭川出身。父親は熊彫りを仕事にしていたそうだ。藤戸さんは十二歳から本格的な木彫の世界に足を踏み入れ、父親と一緒に道内を転々としながら木彫を続けたという。 十五歳の時にはじめて阿寒湖を訪れ、その美しさに心を奪われたという。「阿寒は別天地のようだった。いずれこの地で暮らしたいと思った」という。 二十歳で独立し、二十五歳の時、ついに再び阿寒にやってきた。「ここに根をおろし、あとの人生を過ごそう」と決めていた。以来、阿寒で楽しみながら木彫に没頭して歳月が過ぎたという。 デッサンはしない見たままを木に刻む 木彫の手法は大胆にして緻密(ちみつ)。熊はどれも、丹念な観察から生み出される写実的な美しさを持っている。体毛の一本、爪先のツメの形まで、徹底的な写実のもとに彫抜かれている。 若き日に、「誰もが作る土産物ではない、自分なりの熊が彫りたかった」という思いが、観察眼を鍛え、緻密な作品づくりに向かわせた。 しかし、意外にも彫るときにデッサンはしないという。「デッサンなかできないもの」と、あっけらかんと笑い飛ばす開けっぴろげな性格と、作品の緻密さとの落差に驚く。しかし、制作するときは誰も工房に入れない。彫刻家が自然に真剣勝負を挑む、極度に集中した時間には家族でさえも踏み込むことができないのだ。
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